LECTURE地域学校での講演

地域学校での講演

【サンプル】パワー半導体の界面剥離を防ぐ高温動作時の樹脂選定ガイド

【サンプル】パワー半導体の界面剥離を防ぐ高温動作時の樹脂選定ガイド

目的と前提

SiC/GaNを含む高温動作(175℃級の連続動作や温度サイクル)下で発生しやすい「樹脂―金属/セラミック/シリコン」界面の剥離を、材料選定+界面設計+評価手順で最小化するための実務ガイドです。

剥離の主因は、材料間のCTE(線膨張係数)ミスマッチに起因する熱応力、Tg超過後の弾性率低下、吸湿膨潤による界面応力です。
これらはパッケージ/モジュールの一般的な破壊要因として数多く報告されています。

樹脂の位置づけと使い分け

エポキシ系モールドコンパウンド(EMC):量産実績が最も厚く、フィラー設計によりCTE・熱伝導率・吸水率を制御可能。低CTE化には高充填フィラーが有効で、パッケージ反りや界面応力の主要因を抑えます。

アンダーフィル/接着系エポキシ:ギャップ充填と応力分散に寄与。基材との濡れ性・プライマー適合を重視します。

シリコーンゲル/ポッティング低弾性率による応力緩和高い絶縁性で、電力モジュールの封止で広く用いられます。高温対応グレードの活用とゲル厚・空隙管理がポイントです。

選定指標(必須データ)

Tg(DSC/DMA)とTg前後の貯蔵弾性率E’:Tg超過で弾性率が低下すると、界面拘束が変化し応力再配分が起きます。高温保管・経時での弾性率変化も確認します。

CTE(TMA、Tg前後):CTE差が小さいほど熱サイクル時の界面せん断応力は低下します。フィラー設計の影響も併せて比較します。

吸水率・イオン不純物:吸湿は膨潤・界面劣化を助長し、リフロー/通電時の不具合を誘発します。J-STD-020に準拠したMSL評価により、実装プロファイル適合性を確認します。

熱伝導率:ジャンクション温度低減は界面応力の累積を抑えます(材料の熱応力由来のダメージは温度履歴に比例)。評価時はバルク値だけでなく実装体での放熱経路も確認。

接着相性と前処理適合性:Cu/NiPdAu/Al₂O₃/Si₃N₄/Siなど対象表面との接着メカニズム(化学結合・機械的係合)の妥当性。シランカップリングやプラズマ処理の効果は文献的に確立しています。

界面設計(前処理とプライマー)

プラズマ処理:樹脂側・基材側ともに表面エネルギーを高め、官能基を付与して接着向上。過度な酸化・粗化の有無をXPSや接触角で確認します。

シラン系プライマー:無機(酸化物等)と有機(樹脂)を化学的に橋渡し。基材・樹脂系に応じた官能基選択(エポキシ・アミノ等)が耐湿性向上に有効です。

表面状態の一貫性:粗さ・酸化皮膜厚・残留フラックスの管理は必須。洗浄・乾燥条件と保管(時間・湿度)を作業標準に明記します。

評価・判定フロー

物性評価:DSC/TGAで硬化度と熱安定性、DMAでE’/tanδ、TMAでCTE(Tg前後)を取得。バッチ間ばらつきを統計管理。

非破壊検査:**走査型アコースティック顕微鏡(SAM/SAT)**でボイド・デラミを可視化。工程最適化や信頼性試験前後の差分で用います。

信頼性試験

温度サイクル:JESD22-A104に準拠。サイクル数と判定基準を試験計画に明記。

THB/BHAST/UHAST:高温高湿・(有/無)バイアスでの腐食・吸湿影響を加速評価。JESD22-A110/A118の目的と試験設計を参照。

MSL:J-STD-020に基づく吸湿・リフロー耐性の分類(保管条件・フロアライフ基準含む)。

判定:SAMの空隙・剥離率、電気特性のドリフト、外観・寸法、重量変化(吸湿)を総合判定。必要に応じ断面解析で界面破壊形態を同定します。

設計への落とし込み(実装パラメータ)

FEAでの応力ホットスポット把握:樹脂厚・フィレット形状・角部R・基板/DBCパターン・ワイヤーループ高さは応力集中に直結。過度な高Tg・高剛性の一辺倒は避け、低弾性×適正Tgの組み合わせも検討肢に。

硬化プロファイル管理:流動性・ゲル化・架橋進行を踏まえたインライン硬化度管理は、量産での接着ばらつき低減に有効です。

シリコーンゲル適用時:ボイド起点を避けるための充填・脱泡、ゲル境界の局所電界評価(耐電圧マージン確保)、ゲルと隣接樹脂の界面整合を事前に確認。

実務チェックリスト(抜粋)

材料選定:Tg、E’(Tg前後)、CTE、吸水率、イオン不純物、熱伝導率、接着データをロット付きで取得。

界面設計:基材別に前処理(プラズマ)+適合プライマーを標準化。乾燥・保管・再酸化の管理を明文化。

試験設計:A104温度サイクルBHAST/UHASTMSLを最小セットに、SAMで前後比較。判定基準は定量(剥離面積率、初期不良率、ドリフト量)で定義。

工程管理:硬化プロファイルの温度・時間・湿度、洗浄残渣、樹脂滞留時間(ポットライフ)を管理図化。

設計反映:FEA結果に基づく樹脂厚・R・フィレット・配線/DBCパターン最適化を設計変更票で追跡。

まとめ

高温域の界面剥離は、**材料(Tg/CTE/吸湿)×界面(前処理/プライマー)×試験(A104・BHAST/UHAST・MSL)**の三位一体で制御します。
樹脂単体の“スペックの高さ”より、系全体の整合と量産再現性を優先することが、パワーモジュールの長期信頼性を最短距離で確保する道筋です。

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